歯科矯正をしよう
少なくなった自前の歯も、ぐらぐらして、ガタがきています。
説得の効果があって、いよいよ総入れ歯にする決心をしていただいたとしましょう。
今度は、さあ早く入れ歯を入れてくれ、と患者さんは急ぎはじめます。
なにしろ、たとえわずかでも、自分の歯が残っていることが、いわば心の支えだったわけですから、気持ちはわかります。
悪い影響のある数本の歯を抜いてしまって、何にもない、歯なしの状態で何日も過ごすなんて、まっぴらご免だ、それは当然の感情です。
そんな患者さんには、仮の入れ歯を用意してあげます。
まだ、型も何も採っていない段階での間に合わせの入れ歯ですけれど、口の中がからっぽ、という事態は免れるわけです。
歯を抜いたあとは止血のために縫い合わせてあります。
入れ歯作りの第一段階、次はこの糸を抜いて、いよいよ型採りです。
型を採るにも、土手は高いほうがいいのか、低いほうがいいのか、患者さんのアゴの具合、いわゆる噛み合わせの状態と相談しながらになります。
技工師さんが入れ歯を作るのに、型を採ってから数日かかります。
その間は、やはり仮の入れ歯で我慢してください。
さあ、あなたの口に合った入れ歯ができました。
入れてみましょう。
しっかり噛みしめてください。
しっくりきますか。
舌は充分に動かせますか。
ちょっと待っていただきたいのです。
患者さんは、傷みがきて廃棄処分にした永久歯、自分の歯の代わりに、第三の歯、入れ歯が入って喜んでいます。
私たちにも自信がありますから、その喜びは当然だと思います。
残念なことに、その入れ歯は、結局、こしらえものにすぎません。
患者さんの口に、本当にフィットしているかどうかは、実際のところ、まだ、わからないのです。
これからいろいろなものを口にして試してみることです。
その場では気づかない、微妙なすわりの悪さがわかってくるかもしれません。
患者さんの口とは、まだズレがあるかもしれません。
いや、ズレがあることのほうが多いのです。
今、入った入れ歯は、トレーニング用義歯というものです。
この入れ歯の台の部分の材料は、長い時間をかけて、患者さんの口にフィットしていくように工夫してあります。
新しい服をあつらえるときにも、仮縫いをして、型紙どおりで体に合うかどうかを確かめるはずです。
歯にもそれくらいのことをしてあげていいでしょう。
入れ歯に対する不満が非常に多いのは、たった1回の型採りで、はい、設計図ができた、はい、そのとおりにこしらえた、これをはめれば文句はないはずだ、そういう紋切り型に作られた入れ歯を我慢して入れているのが原因です。
ピッタリ合うか、しっくりくるか、それは実は入れてみて、使ってみてはじめてわかることでもあるのです。
何週間か、何か月か、できれば半年ぐらい、通ってきていただきたいと思います。
その間にぴったりなじんだトレーニング義歯を使って、本当のあなたのためのオーダーメイド、第三の歯を用意させてください。
不肖私が院長を務めております、N歯科医院は、地下鉄東西線は葛西駅、改札を出た真正面の道を渡ったところにあります。
小さなビルの三階ですが、信号の手前からでも、ニカッと笑いかける歯医者さんの絵の看板にお気付きになると思います。
実は私の似顔絵なのですが。
エレベーターで3階に上がると、すぐに玄関です。
真正面が受付になっています。
担当の女性がふたり、出迎えてくれるはずです。
電話でアポイントメントを取っていただくのが原則ですが、受付にいらっしゃったら、診察カードにお名前と来院の目的を記入してください。
受付の前のソファーで、順番が来るのを待っていただきます。
待合室の雰囲気は、何より患者さんをリラックスさせるようなものを心がけています。
どうせ診察台に座るなり歯を引っこ抜かれるのだろうと脅えていらっしゃるかもしれません。
あるいはどなたかの紹介で来院したものの、本格的な入れ歯を作ってもらうのがはじめてであれば、さぞかし不安でいっぱいで歯が痛むに違いありません。
少しでもくつろいでいただけるように、照明やBGMにも気をつかいます。
最近ではBGVなるものも登場して、静かな波打ち際とか、おだやかな日差しと植物の緑などが目を和ませてくれます。
でも何よりも大事なのは、玄関や待合室、診察室が清潔であることです。
歯医者でも一般のお医者さんでも、診療・治療がスムーズに運ぶためには、医師と患者さんの信頼関係が必要です。
患者さんのことは患者さん自身が誰よりもよくわかるのですから、医師は患者さんの言われる症状を判断の拠りどころにするしかありません。
患者さんが医師を無条件に信頼してくださらなければ、本当の声を聞かせてもらえなくなります。
信頼できない医師の処方筆通りに指示を守っていただけるとも思えませんし、どうせ治療もあてにならないと思われては、治るものも治らなくなってしまいます。
まずは第一印象から。
医院の顔である受付に、好感をもって立ち寄っていただくのも、医師の側の役割でしょう。
入れ歯の患者さんに最初にうかがうことは入れ歯をなんとかしてほしいといって来院される患者さんたち。
何年か前に入れたものの、どうやらこれは合わない入れ歯だったらしい。
あるいは部分的な入れ歯で長年こらえてきたけれど、残っている自前の歯もとうとう寿命らしい。
あーあ、いよいよ総入れ歯にするしかないのか。
不安半分、絶望半分、その両方にまたがって、無数の不平の種が埋め込まれています。
入れ歯に舌が当たっていやだと言ったのに相手にされなかった、前歯だけでも自分の歯を残したいと部分入れ歯にしたのに、削られたせいで前歯もグラグラしてきた。
本当にいい入れ歯はこんなふうにでき上がります。
そんな患者さんの不満の中から、治療のヒントが見つかることもあります。
患者さんの歯に対する考え方もわかってきます。
何よりどんな入れ歯を入れてほしいのか、患者さんの望んでいることがはっきりしますし、話を聞いているうちに患者さんの歯のこれまでの経歴を教えてもらえば、これからの治療の方針も立てられるというものです。
不安がっている患者さんは、最初のうちは、自分からは話し出さないこともあります。
私のほうから話を切り出して、患者さんの口を開かせるのも歯医者の腕前です。
アゴの位置はズレていないか、噛み合わせの点検を最初に行う。
長年にわたって口に合わない入れ歯で我慢して、歯の抜けたあと、あるいは入れ歯を外してしまってそのままにしていた患者さんの歯とアゴは、多くの場合、噛み合わせが悪くなっています。
アゴの位置がずれてしまって、その悪影響が体のほかの部分に及んでいることもしばしばです。
診察台に座るまでの、歩く様子でそれと察することもできます。
表情を見て、まぶたが重そうだとか、唇が歪んでしまっている、などといったことで症状がわかることもあります。
歯とアゴの噛み合わせと、表情や体のあちらこちらとの関係については、いささかなりとも心得がありますから、それが話のきっかけをつくるのに役立つのです。
新しい入れ歯を作るにあたっても、噛み合わせの解決を先に考えなければならないこともあります。
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